航空身体検査基準及び航空身体検査マニュアルの改定について

 航空身体検査基準及び航空身体検査マニュアルは平成7年4月1日にその1部が改正され運用されてきました。その後の知見の蓄積、高度な検査手法の普及、制度の運用実績等を踏まえた平成12年6月29日付け航空審議会の答申を受け、国土交通省で同基準及びマニュアルの改正作業が続けられてきました。その結果、平成13年8月17日に同基準の公布、また、平成13年9月27日には同マニュアルが通達されることとなり、平成13年10月1日より新しい航空身体検査基準及び航空身体検査マニュアルが適用となりました。
 以下に新しい航空身体検査基準及び航空身体検査マニュアルの主な改正点を記します。

航空身体検査基準の改定について

1.主な改正点

(1)一 般: ・性病予防法廃止に伴い性病の表記が削除された。
・新たに不適合疾患として航空業務に支障を来たすおそれのあるリウマチ性疾患、膠原病及び免疫不全症が規定された。
(2)呼吸器系: ・従来、肺のう胞有所見者はそれだけで不適合とされていたが、今回、自然気胸又はその既往歴がない場合は適合とされた。
(3)循環器系: ・低血圧について、数値基準(収縮期血圧及び拡張期血圧の最低基準値)を削除する一方、自覚症状がある場合のみ不適合とされた。
(4)視機能: ・遠距離裸眼視力の最低基準値(0.1)が削除されるとともに、眼鏡を使用する場合のレンズの屈折度基準が緩和された。
・第1種身体検査基準(定期運送用操縦士、事業用操縦士又は航空機関士等のライセンス保持者が対象)に中距離視力基準(裸眼又は矯正で80cmの視距離においた近距離視力表により0.2以上)が新設された。
・夜間視力基準が削除された。

2.改正後の身体検査基準を以下に記します。
 航空法施行規則 別表第4


航空身体検査マニュアルの改定について

1.航空身体検査及び証明実施上の一般的な注意及び手続き

  1. 検査結果が身体検査基準に適合するか否か不分明なときは、航空身体検査を行ってはならない等、指定航空身体検査医(以下「指定医」という。)の実施権限が明確化された。
  2. 指定医は検査医及び検査の一部を依頼した他の医療機関等に対し、航空身体検査証明制度を理解させるとともに、自己の責任の下に航空身体検査証明を行うよう指定医の責務が明確化された。
  3. 検査の結果及び所見、その他判定の根拠とした事項の航空身体検査証明申請書の医師記入欄への記載の励行が記述された。
  4. 指定医は自らの航空身体検査証明を行ってはならない旨明記された。

2.航空身体検査項目

 1.一般

  1. 肥満 (1-2)
     肥満の評価方法が標準体重(標準体重(Kg)=[身長(cm)−100]×0.9)から体容量指数(BMI)(体容量指数(BMI)=体重(Kg)/身長(m)2)へ変更された。
  2. 腫瘍 (1-3)
     良性腫瘍について、航空業務に支障を来たさないと判断されたものについては適合とする旨が追加された。
  3. 性病(削除)
     身体検査基準改正に伴い削除された。(感染症に含む。)
  4. 感染症 (1-4)
     法律改正に伴い、不適合状態を「伝染病予防法」に定めるものから「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」に定めるものへ変更された。
    [不適合状態]
    ・「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(平成10年法律第114号)で規定されている疾患のうち次の疾患
    エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、マールブルグ病、ラッサ熱、ペスト、コレラ、細菌性赤痢、腸チフス、パラチフス、ジフテリア、急性灰白髄炎、腸管出血性大腸菌感染症、インフルエンザ、黄熱、回帰熱、狂犬病、炭疽、ツツガムシ病、梅毒、破傷風、百日咳、麻疹、マラリア、淋菌感染症

    ・その他重大な感染症

  1. 糖尿病 (1-5)
     糖尿病の判定基準として空腹時血糖値「140mg/dl以上」が「126mg/dl以上」に変更されるとともに、「随時血糖値200mg/dl以上であるもの」が追加された。また、食事及び運動療法でHbA1cが平均8.0%未満であり主要臓器の合併症がなければ適合としてよいこととなった。
  2. リウマチ性疾患、膠原病及び免疫不全症(1-6)
     航空身体検査基準に追加されたことに伴い新たに規定された。
    [不適合状態]

    ・リウマチ及びリウマチ類縁疾患
      (1)慢性関節リウマチ
      (2)その他のリウマチ性疾患
    ・膠原病及び膠原病類縁疾患
      (1)全身性エリテマトーデス
      (2)シェグレン症候群
      (3)全身性硬化症(強皮症)
      (4)多発性筋炎・皮膚筋炎
      (5)ベーチェット病
      (6)その他の膠原病類縁疾患
    ・免疫不全を伴う疾患

      
  3. アレルギー疾患 (1-7)
     不適合状態としてアレルギー性皮膚疾患が追加された。


 2.呼吸器系

  1. 呼吸機能低下 (2-2)
     不適合状態に慢性閉塞性肺疾患の記述が追加され、呼吸機能検査の不適合状態の数値基準「%肺活量60%以下」が「%肺活量80%以下」に、「1秒率が55%以下」が「1秒率が70%以下」に変更された。
  2. 自然気胸 (2-3)
     肺のう胞所見者は不適合としていたが、自然気胸又はその既往歴がない場合は適合とされた。
  3. 胸部手術 (2-4)
     不適合状態として「手術後6か月を経過しないもの」が「手術後2か月を経過しないもの」に短縮された。

 3.循環器系

  1. 血圧異常(3-1)
      低血圧について、数値基準「収縮期血圧95mmHg以上及び拡張期血圧50mmHg以上」が削除されるとともに、「起立耐性検査の結果、収縮期血圧が90mmHg以下のもの」が「自覚症状を伴う起立性低血圧」となった。また、降圧薬の使用許容範囲について、従来単一の降圧薬の使用が認められていたが、新たに3種類まで認められるとともに、容認降圧薬としてAU受容体拮抗薬が新たに追加された。
  2. 心筋障害 (3-2)
     初回に義務づけられていた運動負荷心電図検査が必要に応じて実施することとなるとともに、運動負荷条件である「心拍数が年齢相当最大心拍数の70%以上」が「心拍数が年齢相当最大心拍数の80%以上」に変更された。さらに、運動負荷方法のうちマスター法が、削除された。
  3. 後天性弁膜疾患 (3-4)
     不適合状態の疾患であっても、超音波ドップラー検査での重症度がT度以内で心機能に異常が認められなければ適合とされた。
  4. 脈拍及び調律異常 (3-7)
     不適合状態としての安静時臥位の脈拍数の数値基準が削除された。また、調律異常に対して侵襲的操作を行ったものが追加された。

 4.消化器系

  1. 消化器疾患 (4-1)
     評価上の注意として、慢性肝炎におけるインターフェロンの使用中は不適合と明記された。
     慢性膵炎及び食道・胃静脈瘤について、国土交通大臣の判定を申請する場合必要となる検査結果が記述された。
  2. 消化器外科疾患 (4-2)
     不適合状態に「人工肛門(ストーマ)、尿管皮膚瘻・回腸導管(ウロストーマ)の増設してあるもの。」が追加され、本状態である者が国土交通大臣の判定を申請する場合の注意が記述された。

 5.血液及び造血臓器

  1. 貧血 (5-1)
     不適合状態の数値基準「ヘモグロビン値11g/dl未満」、「ヘマトクリット値31%未満」がそれぞれ「男性にあっては11g/dl未満若しくは33%未満」、「女性にあっては9g/dl未満若しくは27%未満」と男女別に区別された。

 6.腎臓、泌尿器及び生殖器

  1. 生殖器系疾患 (6-3)
     不適合状態として、従来「精神症状又は著しい疼痛等を伴う月経障害」となっていたが、「精神症状又は著しい疼痛等を伴う月経障害又は子宮内膜症」となった。

 7.運動器系

  1. 運動器の奇形、変形若しくは欠損又は機能障害 (7-1)
     検査方法及び検査上の注意として、操作が可能であることを示すための検査として従来の「操縦する航空機」に加え模擬飛行装置の使用が追加された。

 8.精神及び神経系

  1. てんかん及び意識障害等 (8-4)
     不適合状態として、従来、「脳波記録上、棘又は棘徐波を呈するもの」となっていたが、「脳波記録上、棘又は棘徐波、棘・徐波複合、明らかな局在性徐波及び高度の基礎律動異常を呈するものであって、てんかん性疾患を否定できないもの」と明確化された。
  2. 中枢神経系統の障害 (8-6)
     不適合状態として皮質形成不全が追加された。
  3. 末梢神経系統及び自律神経系統の障害 (8-7)
     不適合状態として、航空業務に支障を来たすおそれのある片頭痛及び慢性頭痛が追加された。

 9.眼

  1. 外眼部及び眼球附属器 (9-1)
     屈折矯正手術について国土交通大臣の判定を申請する場合についての注意が明記された(第2種のみ)
  2. 眼圧測定 (9-2)
     1年に1回実施していたが、緑内障の疑いは視野及び眼底等の検査により確認できること、また、中年期以降の発症が多いことを考慮し初回及び40歳以降年1回で実施するよう変更された。

 10.視機能

  1. 遠距離視力 (10-1)
    1. 裸眼視力の最低基準値(0.1)が削除されるとともに、矯正眼鏡の屈折度基準を第1種については「(±)4D」が「(±)6D」へ、第2種については「(±)5D」が「(±)8D」へ緩和された。
    2. 矯正眼鏡を使用する場合、裸眼及び矯正視力のいずれについても測定することが明記された。
    3. 常用眼鏡は中距離及び近距離視力基準にも同様に適合するものでなくてはならないことが明記された。
    4. コンタクトレンズ使用に当たっての条件が明記された。
  2. 中距離視力 (10-2)
    1. 中距離視力基準として、各眼(矯正可)が80cmの視距離で、近距離視力表(30cm視力用)より0.2以上の視標を判読できることが新設された。(第1種のみ)
    2. 常用眼鏡を使用しない者で、中距離視力について矯正眼鏡を必要とするものについて、矯正眼鏡を携帯することを条件として航空身体検査証明に記載することが記述された。
    3. 矯正眼鏡を必要とする場合、矯正眼鏡を使用した状態で遠距離視力にも適合するものでなければないないことが記述された。
  3. 近距離視力 (10-3)
    1. 常用眼鏡を使用しない者で、近距離視力について矯正眼鏡を必要とするものについて、矯正眼鏡を携帯することを条件として航空身体検査証明に記載することとするが記述された。
    2. 矯正眼鏡を必要とする場合、矯正眼鏡を使用した状態で遠距離視力にも適合するものでなければないないことが記述された。
  4. 視野 (10-5)
     検査方法が量的視野計に限定された。
  5. 夜間視力
     身体検査基準改正に伴い削除された。
  6. 色覚 (10-7)
     後天色覚異常の原因疾患が疑われる場合は実施することとし、原則初回検査時にのみ行うこととなった。また、国土交通大臣の判定を申請する場合、普及機器ではないランタン型色覚検査器の検査結果は必要としないこととなった。

 11.耳鼻咽喉

  1. 内耳、中耳及び外耳 (11-1)
     不適合状態として、聴神経腫瘍及び前庭神経炎が追加された。
  2. 鼓膜 (11-3)
     身体検査基準改正に伴い、「鼓膜の重大な穿孔がないこと」が「航空業務に支障を来たすおそれのある鼓膜の異常がないこと」に変更され、鼓膜の穿孔だけでは問題としないこととなった。(第1種のみ)
  3. 耳管 (11-4)
     身体検査基準改正に伴い、「耳管狭窄がないこと」が「耳管機能障害がないこと」に変更となるとともに、不適合状態として、耳管開放症が追加された。
     従来、耳管狭窄に関する検査は耳管機能検査装置により行うことし、耳管機能検査装置によらない検査として耳管カテーテル法が認められていたが、今回削除された。検査法として気密耳鏡検査及びティンパノメトリーによることが明記された。
  4. 鼻腔、副鼻腔及び咽喉頭 (11-5)
     不適合状態として、ウェゲナー肉芽腫症、鼻腔、副鼻腔部及び咽頭の腫瘍が追加された。